夢の賢者ユング3「夢の世界」ユングは博覧強記で、しかも膨大な著作を残した。心理学、精神医学、身体医学のみならず、神話、宗教、哲学、グノーシス主義、錬金術などに関して生き字引きともいうべき知識をもっていたし、母国語のドイツ語のほかに、英語、フランス語、ラテン語、ギリシア語ができ、その各々の文学に精通していた。彼にはその膨大な知識をひけらかすようなところは微塵もなかったが、それでも彼の書いたものを読めばその博識ぶりは一目瞭然である。一方、ュングは自分の考えをうまくまとめることがおよそ不得手だったので、予備知識のない者は、大冊二十巻におよぶ『C・G・ユング著作集』を前にして、途方に暮れてしまう。自分の考えを人に伝えるのが下手だということは、ュング自身も自覚していた。彼はこんなふうに一言っている。「誰も私の本を読まない。自分の言いたいことを人に理解させるのは、私には至難の業だ」。➡ アンソニー・スティーヴンズ「ユング」講談社選書メチエ