ある日のくうかいと、香草庵の売上帳### **ある日のくうかいと、香草庵の売上帳**
香草庵のカウンターに、りゃんシーがうつ伏せ気味に突っ伏していた。
売上帳をひらいたまま、鉛筆を指のあいだでぐるぐる回しながら。
「……なんでだ。
表国分寺じゃ“売れてます風”に見えたのに……。」
ページには、今日もさびしい数字が並んでいる。
やる気も混乱もすべてごちゃまぜに、りゃんシーは髪をかきむしった。
と、その横でくうかいがペタペタと机に乗り、帳簿に顔を近づけた。
「りゃんシー、これ、“売上”っていうより“材料費の亡霊”だよね?」
「亡霊とか言うな。傷つくだろ……僕が。」
くうかいは鼻をくいっと上げて、りゃんシーの脇腹を指でつつく。
「ねぇ。表で売るとき、もっと愛想よくしたらどう?
りゃんシー、仮面の下でずっと‘ムッ’ってしてるよ。」
「……いや、あれは“やんちゃクールの演出”で……」
「お客さん、気づいてないよ。
むしろ“機嫌わるいのかな?”って思われてる。」
「ぎゃふん。」
りゃんシーは頭を抱え、帳簿に額をつけてぐでぇっとした。
くうかいは、そんな姿を見てくすくす笑いながら、帳簿の端っこにちょんと座る。
「でもさ、りゃんシーの作る薬草油とか霧香とか、ぼくはすごい好きだよ。
表の人たちが気づいてないだけで。」
「……おまえのその言い方ずるいよ。元気出るじゃん。」
「出てよ。」
くうかいが、りゃんシーの頭にぽすっと手を置く。
小さな光の粒がふわりと散って、りゃんシーの肩の力が少し抜けた。
「……じゃあ、明日は“やさしい雰囲気の仮面薬師”でいくか。」
「それがいい。それと笑顔の練習ね。」
「おまえ、それ言うために来たな?」
「うん。」
ふたりの笑い声が、香草庵の静かな部屋に溶けていく。
売上帳の数字は変わっていないけれど、
その上にこぼれた光だけは、少し未来をあたためて見せた。